糖尿病と睡眠障害の関係:血糖から眠りまで専門医が徹底解説

糖尿病と睡眠

眠れない夜と血糖値の意外な関係

「夜になってもなかなか眠れない」「朝起きても疲れが取れない」――そんな悩みを抱える方は少なくありません。
実は、睡眠と血糖値には深い関係があります。睡眠が足りなかったり、質が悪かったりすると、血糖が上がりやすくなります。逆に、糖尿病の影響で睡眠が妨げられることもあります。

この悪循環は放置すると、血糖コントロールを難しくします。この記事では、糖尿病と睡眠障害の関係、そして改善策を専門医の視点で解説します。

睡眠の質が血糖に与える影響

睡眠不足や浅い眠りは、体のホルモンバランスを乱します。
特に、インスリン抵抗性が悪化し、血糖が上がりやすくなることが知られています。

  • 睡眠が短いと、食欲を増やすホルモン(グレリン)が増え、食欲を抑えるホルモン(レプチン)が減ります。
  • この結果、夜食や間食が増え、血糖が上がりやすくなります。
  • 成長ホルモンコルチゾールの分泌リズムも崩れ、朝の高血糖(暁現象)が強くなることもあります。

短時間睡眠や不規則な生活は、糖尿病のリスクをじわじわ高める要因となるのです。

糖尿病が睡眠に与える影響

糖尿病があると、睡眠が妨げられることがあります。

  • 高血糖による夜間頻尿や口渇で、夜中に何度も目が覚める
  • 末梢神経障害のしびれや痛みで、熟睡できない
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)が合併しやすく、血糖も悪化しやすい

特にSASは、糖尿病患者での合併率が高く、知らないうちに血糖管理を難しくしていることがあります。

科学的根拠(エビデンス)

糖尿病と睡眠障害の関係は、多くの研究で証明されています。
ここでは、睡眠不足・睡眠時無呼吸症候群(SAS)・治療効果の3つの視点で詳しく解説します。

睡眠不足と糖尿病リスク

睡眠不足は、糖尿病の発症リスクを高めることが知られています。米国の前向きコホート研究では、女性約7万人を対象に10年間追跡した結果、睡眠時間が5時間以下の群では、7〜8時間睡眠の群に比べて2型糖尿病の発症リスクが約1.5倍に上昇していました1,2

そのメカニズムとして、短時間睡眠によりインスリン感受性が低下するほか、食欲を増進させるグレリンの上昇と、食欲を抑制するレプチンの低下によって過食傾向が助長されます。さらに、夜間の交感神経活動亢進やコルチゾール上昇により、朝の血糖も高くなります。このように、慢性的な睡眠不足は血糖上昇の土台を作る“隠れたリスク”となり、糖尿病発症につながる可能性があります。

糖尿病患者に多い睡眠時無呼吸症候群(SAS)

糖尿病のある方は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)を合併することが少なくありません。報告によれば、2型糖尿病患者の約23〜36%がSASを合併しており、特に肥満傾向のある患者ではその頻度がさらに高くなります3

SASが血糖コントロールを悪化させる理由としては、無呼吸による低酸素が交感神経を刺激し、インスリン抵抗性を悪化させることが挙げられます。さらに、繰り返す低酸素は炎症反応を促進し、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインが上昇します。また、睡眠の分断によってホルモン分泌が乱れ、朝の血糖が上がりやすくなります。このように、SASは自覚のないまま血糖コントロールを妨げる要因となり得ます。糖尿病のある方は、SASを合併することが少なくありません。

治療介入での改善効果

CPAP(持続陽圧呼吸療法)は、中等症以上の睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者に対して行われる標準的な治療です。この治療では、夜間に持続的に陽圧をかけることで無呼吸を防ぎ、低酸素状態や交感神経の過剰な亢進を抑えることができます。血糖に対する効果としては、HbA1cが平均で0.3〜0.4%低下するほか、空腹時血糖やHOMA-IR(インスリン抵抗性指標)の改善も報告されています4。このように、CPAP治療は血糖コントロールの補助的手段としても有用です。

エビデンスが示す3つのポイント

  1. 睡眠不足は2型糖尿病リスクを約1.5倍にする
  2. 糖尿病患者の約3割はSASを合併している
  3. SASや不眠の治療でHbA1cは0.3〜0.4%低下する可能性がある

睡眠の質を改善することは、血糖コントロールに直結する医学的介入です。
「眠れない夜」を軽く考えず、必要に応じて医療機関での評価も受けましょう。

専門医が勧める改善策

1. 生活リズムを整える

  • 就寝・起床時刻をなるべく一定に
  • 夜遅くのスマホやPC使用は控える
  • 昼寝は長くても30分以内

2. 寝室環境を整える

  • 枕の高さを調整し、横向き寝は無呼吸対策に有効
  • 寝室は暗く・静か・涼しく保つ

3. 運動と食事の工夫

  • 夕方の軽い有酸素運動は睡眠を深くする
  • 寝る直前の過食や飲酒は避ける

4. 医療機関でのチェック

  • いびきや日中の強い眠気があれば、睡眠ポリグラフ検査を受ける
  • 不眠症は薬だけでなく、認知行動療法(CBT-I)が第一選択
  • 血糖コントロール改善は、睡眠の質にも良い影響を与える

眠りの改善は糖尿病治療の一歩

睡眠と血糖は互いに影響し合うため、「眠れない夜」を放置することは血糖管理の妨げになります。
生活リズムの調整、寝室環境の見直し、必要に応じた医療介入を組み合わせることが大切です。

良質な睡眠は、糖尿病治療の大切な一歩となります。

参考文献

  1. Spiegel K, et al. Lancet. 1999 Oct 23;354(9188):1435-9.
  2. Ayas NT, et al. Diabetes Care. 2003 Feb;26(2):380-4.
  3. Aronsohn RS, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2010 Mar 1;181(5):507-13.
  4. Babu AR, et al. Arch Intern Med. 2005 Feb 28;165(4):447-52.

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この記事を書いた人
都内の総合病院で糖尿病や内分泌疾患を専門に診療している医師です。総合内科専門医/糖尿病専門医/内分泌代謝科専門医/医学博士。年間2000人以上の糖尿病患者さんを診察しながら、学会発表や研究活動も行っています。このブログでは、日々の診療で感じた「患者さんが本当に知りたいこと」「わかりづらい医療情報をわかりやすく伝えること」を大切にしています。正しい知識を知ることが、安心への第一歩になりますように。

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