脂肪肝とは?糖尿病と脂肪肝のかかわり

血糖値以外に、「脂肪肝」であると指摘される方も多いかと思います。多くの方は「脂肪肝は、お酒をたくさん飲む人の病気」と思っているかもしれません。しかし、お酒を飲まない方でも脂肪肝は起き、またそれは糖尿病と深いかかわりがあります。
この記事では、糖尿病専門医の視点から、以下の点を詳しく解説します。
- そもそも脂肪肝とは何か?
- なぜ糖尿病と脂肪肝は、これほどまで密接に関係するのか?
- 最新の研究データ(エビデンス)から見る、その深刻なつながり
- 明日からできる、具体的な対策
知っておきたい「脂肪肝」の基本
まず、「脂肪肝」そのものについて理解を深めましょう。
脂肪肝とは、肝臓の「フォアグラ」状態
脂肪肝とは、その名の通り、肝臓に脂肪(主に中性脂肪)が過剰に蓄積した状態を指します。健康な肝臓でも脂肪はわずかに含まれますが、肝細胞の5%以上に脂肪が溜まると脂肪肝と診断されます。いわば、肝臓が高級食材のフォアグラのようになってしまっているイメージです。
お酒を飲まなくてもなる「非アルコール性脂肪肝疾患」
脂肪肝には、大きく分けて2つのタイプがあります。
- アルコール性脂肪肝: 長期間の過度な飲酒が原因。
- 非アルコール性脂肪肝疾患: お酒をほとんど飲まない、あるいは全く飲まないのに発症する脂肪肝。
近年の日本では、食生活の欧米化や運動不足を背景に、この非アルコール性脂肪肝疾患が急増しています。そして、この非アルコール性脂肪肝疾患こそが、2型糖尿病と非常に深い関係にあるのです。
危険なのは、ただの脂肪肝で終わらないこと
非アルコール性脂肪肝疾患は、単に脂肪が溜まっているだけの状態から、時に線維化(組織が硬くなること)を伴う「非アルコール性脂肪肝炎」に進展します。非アルコール性脂肪肝炎を放置すると、数年から十数年の経過で肝硬変や肝がんへと進行するリスクがあります。つまり、脂肪肝は決して「ただ太っているだけ」で済まされる問題ではないのです。これは、あなたの肝臓が発している重要な危険信号(アラーム)と言えます。

なぜ?「糖尿病」と「脂肪肝」の悪循環
それでは、本題である糖尿病と脂肪肝の関連について解説します。この二つの病気は、「鶏が先か、卵が先か」のように、互いに影響を及ぼし合い、恐ろしい悪循環を生み出します。
キーワードは「インスリン抵抗性」
この悪循環を理解する上で最も重要なキーワードが「インスリン抵抗性」です。
- インスリンとは? 膵臓から分泌されるホルモンで、血液中の糖(血糖)を細胞に取り込ませ、血糖値を下げる働きをします。車で言えば、血液中の糖をエネルギーとして使うための「アクセル」のような役割です。
- インスリン抵抗性とは? 肥満や運動不足などが原因で、このインスリンの効きが悪くなった状態を指します。アクセルを踏んでも、うまくスピードが出ない状態に似ています。
脂肪肝が糖尿病を引き起こし、悪化させるメカニズム
インスリン抵抗性が生じると、体は何とか血糖値を下げようと、より多くのインスリンを分泌します(高インスリン血症)。この過剰なインスリンが、肝臓での脂肪合成を強力に促進してしまうのです。その結果、脂肪肝が引き起こされます。さらに、脂肪が溜まった肝臓自体が、インスリン抵抗性をさらに悪化させる物質を放出します。また、肝臓からの糖の放出を抑えきれなくなり、血糖値が上がりやすくなります。つまり、 インスリン抵抗性 → 脂肪肝になる → 脂肪肝がインスリン抵抗性をさらに悪化させる → 血糖値がさらに上がる という、負のスパイラルに陥ってしまうのです。脂肪肝は「糖尿病の結果」であると同時に、「糖尿病の原因・悪化因子」でもあるのです。
研究データが示す深刻な関係
ここからは、実際の研究データ(エビデンス)を見ていきましょう。専門家の勘や経験だけでなく、科学的な根拠に基づいた事実を知ることが重要です。
2型糖尿病の人の多くが、脂肪肝を合併している
2型糖尿病の患者さんが、どれくらいの割合で非アルコール性脂肪肝疾患を持っているかご存知でしょうか。世界中の多くの研究報告をまとめた大規模な解析(メタアナリシス)によると、その割合は非常に高いことが示されています。ある報告では、2型糖尿病患者におけるNAFLDの有病率は55.5%、さらに進行したNASHの有病率も37.3%にものぼると結論づけています1。これは、糖尿病と診断された方の2人に1人以上が、すでに脂肪肝を合併している可能性があることを意味します。
糖尿病患者で脂肪肝を合併している場合、死亡リスクが高い
脂肪肝を合併している糖尿病患者は、合併していない糖尿病患者より心臓病になりやすく、死亡リスクが明らかに高いことが報告されています2。
脂肪肝があると、将来の糖尿病発症リスクが2倍以上に
逆に、今は糖尿病ではないけれど脂肪肝がある、という人はどうでしょうか。こちらも複数の研究で、脂肪肝(特に超音波検査で診断されたもの)があると、将来的に2型糖尿病を発症するリスクが大幅に高まることが確認されています。最近のレビュー論文では、NAFLDを持つ人は持たない人に比べて、将来2型糖尿病を発症するリスクが約2.2倍に上昇すると報告されています3 。脂肪肝は、糖尿病の「予備軍」どころか、極めて強力な「危険因子」なのです。
たった5~7%の減量が、肝臓の脂肪を劇的に改善させる
では、対策はないのでしょうか。希望はあります。そして、その鍵は「減量」です。ある画期的な研究では、非アルコール性脂肪肝炎の患者さんを対象に、生活習慣の改善による減量効果を検証しました。その結果、体重の5%以上を減らすと肝臓の脂肪量が、7%以上減らすと肝臓の炎症が、そして10%以上減らすと肝臓の線維化(硬さ)が改善することが明らかになりました4。わずかな減量でも、あなたの肝臓は着実に良い方向へ変化するのです。
専門医の視点からのアドバイス:今日から始めるべきこと
まずは「正確な診断」から。ためらわずに専門医へ

血液検査で肝機能(AST, ALT)や血糖値、HbA1cを詳しく調べるほか、「腹部超音波(エコー)検査」が非常に重要です。この検査で、肝臓に脂肪がどれくらい溜まっているか、客観的に評価することができます。これが治療のスタートラインになります。
実際の診断方法
脂肪肝は以下の所見をもとに総合的に診断されます。
- ASTやALT、γGTPなどが高い
- 腹部超音波検査で肝臓の輝度(光る度合い)が高い
- ほかに肝機能障害をきたす疾患がみつからない
食事療法の要は「カロリー」と「糖質の種類」
脂肪肝と糖尿病の改善には、食事療法が不可欠です。私がいつも患者さんにお話しするポイントは2つです。
- 総摂取カロリーを減らす: 基本中の基本ですが、これが最も効果的です。特に夕食の量を少し減らす、間食をやめるなど、できることから始めましょう。目標は、まず現在の体重の5%減です。体重80kgの方なら、4kgの減量を目指します。
- 「果糖」の摂取を意識的に減らす: 糖質の中でも、特に果糖(フルクトース)は、肝臓で中性脂肪に変換されやすい特徴があります。果糖は、清涼飲料水、ジュース、お菓子、そして果物にも多く含まれます。特に「果糖ぶどう糖液糖」と表示のある飲み物は、血糖値を急激に上げ、脂肪肝を悪化させるため、極力避けるべきです。果物も健康的なイメージがありますが、食べ過ぎは禁物です。1日に片手に乗るくらいの量を目安にしましょう。
運動は「有酸素運動+筋トレ」が最強の組み合わせ
運動療法は、インスリン抵抗性を改善する上で食事療法と並ぶ車の両輪です。
- 有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳など、少し息が弾むくらいの運動を、まずは1日20~30分、週に3~5日行うことを目指しましょう。これにより、脂肪がエネルギーとして燃焼されやすくなります。
- レジスタンス運動(筋トレ): スクワットや腕立て伏せなどの筋トレを週に2~3回加えることを強く推奨します。筋肉は体内で最も多くの糖を消費する臓器です。筋肉量を増やすことで、インスリンの効きが良い、燃費の良い体を作ることができます。
「少しずつの変化」を褒め、続けること
厳しい食事制限や激しい運動をいきなり始める必要はありません。大切なのは、継続することです。例えば、「エスカレーターを階段に変える」「飲み物を水かお茶にする」「夕食のご飯を半分にする」。このような小さな成功体験を積み重ね、ご自身の変化を褒めてあげることが、長期的な改善への一番の近道です。
結語:脂肪肝の改善は、未来の健康への投資
今回は、糖尿病と脂肪肝の密接で危険な関係について、最新のエビデンスを交えながら解説しました。
要点をまとめると、
- お酒を飲まなくてもなる脂肪肝は、糖尿病の強力な危険因子です。
- 脂肪肝と糖尿病は、「インスリン抵抗性」を介して互いを悪化させる負のサイクルにあります。
- しかし、この悪循環は「生活習慣の改善」、特に5~7%の減量によって断ち切ることが可能です。
健康診断で糖尿病や脂肪肝を指摘されることは、決して喜ばしいことではありません。しかし、これはあなたの体が発している「生活を見直すチャンス」というサインでもあります。脂肪肝を改善させることは、血糖値をコントロールし、将来の肝硬変や肝がん、そして心筋梗塞や脳梗塞といった深刻な合併症を防ぐための、最も効果的な「未来の健康への投資」です。
一人で悩まず、ぜひ専門医と一緒に、正しい知識を持って治療の第一歩を踏み出してください。あなたの小さな一歩が、10年後、20年後の健康を大きく左右するのです。
参考文献
- Younossi ZM, et al. Hepatology. 2016 Jul;64(1):73-84.
- Caussy C, et al. Curr Diab Rep. 2021 Mar 19;21(5):15.
- Lee CH, et al. J Diabetes Investig. 2022 Jun;13(6):930-940.
- Vilar-Gomez E, et al. Gastroenterology. 2015 Aug;149(2):367-78.

この記事を書いた人
都内の総合病院で糖尿病や内分泌疾患を専門に診療している医師です。総合内科専門医/糖尿病専門医/内分泌代謝科専門医/医学博士。年間2000人以上の糖尿病患者さんを診察しながら、学会発表や研究活動も行っています。このブログでは、日々の診療で感じた「患者さんが本当に知りたいこと」「わかりづらい医療情報をわかりやすく伝えること」を大切にしています。正しい知識を知ることが、安心への第一歩になりますように。
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