糖尿病の薬はずっと一生飲み続けるもの?
〜「やめられる薬」と「続けるべき薬」の違いを整理〜

糖尿病の薬は一生飲むものだと思っていますが、違いますか?
糖尿病の患者さんに薬を処方するときによく言われるワードがあります。
- 一生飲むのですか?
- やめられないと聞くので飲みたくありません。
できれば薬は使いたくない。自然に治したい。
そんな気持ち、とてもよくわかります。
ただ、「糖尿病の薬は一生飲むもの」は半分正解であるものの、半分は不正解です。
糖尿病の薬をやめられるケースはありますか?
薬をやめられるケースも少なからずあります。ただ、何よりも重要なのはHbA1cを7%以下に抑えることです。
UKPDSという臨床研究では、HbA1cを7%以下に抑えることで糖尿病の合併症を大きく抑えられるという結果が報告されています1。
したがって、糖尿病の治療でまず大事なのは、HbA1cを7%以下に抑えることなのです。

薬をやめられるかどうか、それはまずHbA1cを7%以下に抑えることを達成してから、の話です。
糖尿病の薬をやめられるケースには、どのようなものがありますか?
薬をやめるとき。以下のようなケースがあります。
- 高血糖でインスリン注射と内服薬を開始。その後食事運動療法を行い、体重が7㎏減少し、インスリンと内服薬を中止してもHbA1cは6.2%と良く、再開することなく経過した。
特に肥満があるかたは、減量はとても大きな意味があります。
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糖尿病の薬をやめられないケース
逆に、以下のような薬は「続ける前提」で考えた方が良いケースもあります。
- インスリン注射
やせ型で、膵臓のインスリン分泌が著しく低下している場合は、補充が必要になります。 - SGLT2阻害薬
心臓病・腎臓病の予防のために継続が推奨されることがあります。
こうした薬は「血糖を下げるため」だけでなく、「臓器を守る」ことも目的とされているため、長期使用されることが多いです。
薬をやめられる条件
以下の条件を満たせば、薬をやめられる可能性があります:
- HbA1cが6.5%未満で安定している
- 体重が適正になっている(BMI25未満など)
- 血糖自己管理ができている
- 医師と定期的に相談している
特に減量による血糖改善は大きな武器になります。
最近では、糖尿病初期で体重を10%減らすことで「寛解(remission)」が得られるという研究も増えています。
「薬=負け」ではない
糖尿病治療で何よりも重要なのは「合併症を起こさない、合併症を進展させない」ということです。
糖尿病の薬は、あなたの膵臓の負担を減らし、合併症の進行を防ぐための手段です。
薬を拒絶することなく、しかしながら頼りきりになることもなく、上手に使うことが重要です。
医師の視点から:どう考えるか
私たち糖尿病専門医としては、こう考えます。
糖尿病は一時的によくなっても、数年後にまた悪化することもあります。
そのため、一生薬を使わないですむ人はごく一部ですが、薬を使いつつ、悪化を防ぎ、健康寿命を延ばすことは十分可能です。
【まとめ】
- 糖尿病の薬は「一生続ける」とは限らない
- やめられる薬もあれば、続けた方がよい薬もある
- 重要なのは「自己判断せず、医師と方針を決める」こと
- 薬は「負け」ではなく、合併症を防ぐ味方
- 生活習慣改善と併せて、無理のない治療を
🔖参考文献
- Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):837-53.
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この記事を書いた人
都内の総合病院で糖尿病や内分泌疾患を専門に診療している医師です。総合内科専門医/糖尿病専門医/内分泌代謝科専門医/医学博士。年間2000人以上の糖尿病患者さんを診察しながら、学会発表や研究活動も行っています。このブログでは、日々の診療で感じた「患者さんが本当に知りたいこと」「わかりづらい医療情報をわかりやすく伝えること」を大切にしています。正しい知識を知ることが、安心への第一歩になりますように。