オゼンピックとマンジャロどっちがやせる?

「痩せる注射薬」として話題のGLP-1受容体作動薬。
その中でも、オゼンピック(セマグルチド)とマンジャロ(チルゼパチド)は、特に注目されています。

では、どちらの方が体重を減らす効果が高いのでしょうか?
この記事では、臨床試験や実臨床データをもとに、科学的根拠に基づいて比較していきます。

GLP-1受容体作動薬とは?

GLP-1とは、腸から分泌されるホルモンです。
血糖値の上昇を抑えるだけでなく、胃の動きを遅らせ、食欲を減らす働きもあります。
この働きを応用したのがGLP-1受容体作動薬です。
もともとは糖尿病の治療薬として使われていましたが、体重減少効果が注目され、肥満症の治療にも使われるようになっています。

オゼンピックとは?

オゼンピック週1回注射するGLP-1受容体作動薬です。
主成分はセマグルチドで、ノボノルディスク社が開発しました。
日本でも2型糖尿病に対して保険適用があります。
糖尿病では1.0mgまでが保険適応があります。
高用量(2.4mg)は肥満症にも使われており、商品名は「ウゴービ」となっています。

マンジャロとは?

マンジャロGLP-1とGIPの両方の受容体に作用するデュアル作動薬です。
成分はチルゼパチド。イーライリリー社が開発しました。
GIPはインクレチンの一種で、GLP-1との相乗効果が期待されています。
体重減少効果の面で非常に注目されています。

臨床試験での比較

両薬剤の直接比較試験として有名なのがSURPASS-2試験1です。
この試験では、マンジャロ(5~15mg)とオゼンピック(1mg)が比較されました。

Adapted from Jastreboff AM, et al. N Engl J Med. 2022; DOI:10.1056/NEJMoa2206038. Licensed under CC BY 4.0.
左のTirzepatide(チルゼパチド)がマンジャロ、右のSemaglutide(セマグルチド)がオゼンピックです.
図の縦軸は40週でどの程度体重が減ったかを表しています.


40週間の試験で得られた結果は以下の通りです。

投与薬平均体重減少(kg)平均体重減少率(%)
オゼンピック1mg約5.7kg約6.2%
マンジャロ15mg約11.2kg約12.4%

※いずれも2型糖尿病患者が対象

マンジャロは、体重減少効果で明らかにオゼンピックを上回りました。
しかもHbA1c低下量も上回っていました。

より高用量のオゼンピック(ウゴービ)

ただし、オゼンピックの高用量版である「ウゴービ(2.4mg)」になると話は変わります。
肥満者を対象としたSTEP 1試験2では、平均体重減少率は14.9%に達しました。
これはマンジャロの高用量と同等、あるいはやや劣る程度です。
つまり、「オゼンピックでも用量が高ければ十分に痩せる」という結果も出ています。

実臨床データでは?

2023年にアメリカで行われた観察研究では、以下のような報告がありました3

  • マンジャロ使用群:平均体重減少率 15.3%(1年後)
  • オゼンピック使用群:平均体重減少率 8.3%(同)

しかも、マンジャロ使用者の方が、10%以上の体重減少を達成した割合が有意に多かったのです。
この差は明確です。

副作用と注意点

両薬剤とも、主な副作用は消化器症状です。
具体的には、吐き気、嘔吐、下痢などがよく見られます。
また、非常に急激に体重が減るため、筋肉量の減少や骨密度の低下が懸念されます。
栄養バランスや運動の併用が重要です。

特に、マンジャロの方が作用が強いため、副作用の頻度もやや高めです。
初回から高用量を使うのは避けるべきです。
徐々に増量するのが基本です。

専門医の視点

体重減少効果という観点では、現時点でマンジャロのほうが強力と考えられます。
ただし、痩せるスピードが速すぎると、代謝への悪影響も出やすいです。
また、「リバウンド」のリスクも忘れてはいけません。
薬をやめた後に、食欲や体重が戻るケースも少なくありません。

薬に頼りきらず、食事・運動の習慣を同時に整えることが大前提です。
医師の指導のもと、適切な目標設定とモニタリングが必要です。

糖尿病・肥満症治療は総力戦、食事・運動・投薬のバランスこそが大事です。

結論:どっちが痩せる?

「より痩せる薬は?」と聞かれたら、今のところマンジャロが上です。
ただし、それだけで決めるのは危険です。

  • 効果が強い=副作用も強い
  • 高用量オゼンピックも十分に痩せる
  • 継続使用と生活習慣が最重要

体質や目的、ライフスタイルによって向き不向きがあります。
まずは、医師と相談して自分に合った方法を見つけることが一番大切です。

参考文献

  1. Frías JP, et al. N Engl J Med. 2021 Aug 5;385(6):503-515.
  2. Wilding JPH, et al. N Engl J Med. 2021 Mar 18;384(11):989-1002.
  3. Rodriguez PJ, et al. JAMA Intern Med. 2024 Sep 1;184(9):1056-1064.

この記事を書いた人
都内の総合病院で糖尿病や内分泌疾患を専門に診療している医師です。総合内科専門医/糖尿病専門医/内分泌代謝科専門医/医学博士。年間2000人以上の糖尿病患者さんを診察しながら、学会発表や研究活動も行っています。このブログでは、日々の診療で感じた「患者さんが本当に知りたいこと」「わかりづらい医療情報をわかりやすく伝えること」を大切にしています。正しい知識を知ることが、安心への第一歩になりますように。

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