GLP-1製剤ってなに?〜リベルサス、オゼンピック、マンジャロをわかりやすく解説〜

うまく使えば有効な「GLP-1製剤」
最近話題の新しい糖尿病治療薬「GLP-1製剤(リベルサス・オゼンピック・マンジャロ)」が注目されています。
今回はこれらの薬が「どういう薬で、どんな効果や副作用があるのか」を、わかりやすく解説していきます。

GLP-1ってなに?なぜ糖尿病に効くの?
GLP-1(ジーエルピーワン)とは、食事をすると腸から自然に出るホルモンで、インスリンの分泌を助けたり、胃の動きをゆっくりにして食欲を抑えたりする作用があります。
つまり「血糖を下げる」「食べすぎを防ぐ」働きがあるのです。
しかし、2型糖尿病の方では、このGLP-1の分泌が少なかったり、効きが悪くなっていることがあります。
そこで登場したのが、GLP-1の作用を薬として再現する「GLP-1受容体作動薬」です。
どんな種類があるの?GLP-1製剤(リベルサス・オゼンピック・マンジャロ)
現在、日本でよく使われている代表的な3つのGLP-1製剤についてご紹介します。
① リベルサス(一般名:セマグルチド経口製剤)
- 世界初の内服タイプのGLP-1製剤。
- 朝一番に空腹の状態で、水120ml以下で飲みます(食事や薬との間隔が重要)。
- 毎日服用するタイプで、注射に抵抗のある人にとっては画期的な選択肢。
② オゼンピック(一般名:セマグルチド注射製剤)
- 週に1回の皮下注射でOK。
- 血糖コントロールだけでなく、心血管病リスクの低下が確認されています。
- 体重減少効果も強く、すでに多くの国でスタンダードな治療薬に。
③ マンジャロ(一般名:チルゼパチド)
- GLP-1だけでなく、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)というホルモンにも作用する“二刀流”の新薬。
- 血糖・体重ともに強力に改善。
- 週1回の注射で、2023年以降注目を集めています。
エビデンスでみるGLP-1製剤の効果
実際の研究でも、これらの薬は優れた成績を示しています。
- リベルサスは、HbA1cを0.9〜1.2%低下させ、体重も平均2〜4kg減少したと報告されています1。
- オゼンピックでは、心血管病を持つ糖尿病患者において、主要心血管イベント(血管による病気)を26%低下させる効果が示されました2。
- マンジャロは、HbA1cの低下幅が最大2.5%、体重は10kg以上減ったという驚きのデータもあります3。
これらの結果は、単に「血糖を下げる」だけでなく、「合併症リスクを減らす」「生活の質を向上させる」点でも大きな意味があります。
副作用は?注意すべきポイント
GLP-1製剤の副作用としては、主に消化器症状が知られています。
- 吐き気
- 胃のむかつき
- 食欲低下
- 下痢や便秘
多くは初期に出やすく、使い続けると慣れて軽くなることが多いです。
ただし、急激な体重減少や食事量の減少が続くと、筋肉量まで減ってしまうことがあるため、高齢者では注意が必要です。
また、低血糖は基本的に起こりにくい薬ですが、他の糖尿病薬(インスリンやSU薬)と併用しているときには注意が必要です。
重篤な副作用はまれですが、膵炎のリスクや胆石・胆嚢炎のリスクがわずかに報告されているため、腹痛や吐き気が強い場合には早めに受診を。
使用方法・打ち方の基本
リベルサス(飲み薬)
- 朝の空腹時に、コップ半分以下の水(最大120ml)で1錠だけ飲みます。
- 飲んだ後は、少なくとも30分間は何も食べず、他の薬も飲まないでください。
- 食後に飲むと吸収が落ちてしまい、効果が下がります。
オゼンピック・マンジャロ(注射薬)
- どちらも週に1回の皮下注射。お腹、太ももなどの皮下に打ちます。
- 曜日と時間は毎週固定にしましょう。
- 自分で注射できるよう、病院で初回指導があります(痛みは少なめです)。
- 忘れた場合は、できるだけ早く注射し、以後1週間ごとに打ち直しましょう。
専門医の視点:誰に向いてる?どの薬を選ぶべき?
どの薬を使うかは、**糖尿病の重症度、体重、心血管病の有無、生活スタイル、薬の好み(飲み薬or注射)**によって変わります。
たとえば…
- 心筋梗塞や脳梗塞の既往がある方 → オゼンピックがおすすめされることが多い。
- とにかく体重を減らしたい方 → マンジャロが第一選択になり得る。
- 注射がどうしても無理な方 → リベルサスが選択肢に。
ただし、いずれも価格がやや高めであること、吐き気などの副作用の出方に違いがあることなどもあり、医師とよく相談しながら決めましょう。
結語:未来を変える新しい治療選択肢
糖尿病治療は、もはや「血糖を下げるだけ」ではありません。
GLP-1製剤は、血糖コントロールに加えて、体重、心血管リスク、QOLまで改善させる可能性を秘めた新時代の薬です。
「HbA1cが高い」と言われ、不安に思うのは当然です。
しかし、現在の医療は非常に多くの選択肢があり、個々に合った治療を選ぶことができる時代です。
まずは焦らず、専門医と相談しながら、自分に合った一歩を踏み出していきましょう。
参考文献
- Davies MJ, et al. Oral semaglutide vs placebo in type 2 diabetes. Lancet. 2019;394(10192):141-151.
- Marso SP, et al. Semaglutide and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med. 2016;375(19):1834-1844.
- Frías JP, et al. Tirzepatide versus semaglutide once weekly in type 2 diabetes. N Engl J Med. 2021;385:503-515.

この記事を書いた人
都内の総合病院で糖尿病や内分泌疾患を専門に診療している医師です。総合内科専門医/糖尿病専門医/内分泌代謝科専門医/医学博士。年間2000人以上の糖尿病患者さんを診察しながら、学会発表や研究活動も行っています。このブログでは、日々の診療で感じた「患者さんが本当に知りたいこと」「わかりづらい医療情報をわかりやすく伝えること」を大切にしています。正しい知識を知ることが、安心への第一歩になりますように。