糖尿病の合併症とは?

糖尿病と診断された方の多くがまず心配するのは、合併症のリスクです。
糖尿病は適切な管理を行わないと、神経障害、網膜症、腎症といった微小血管合併症や心筋梗塞、脳卒中といった大血管障害を引き起こす可能性があります。
この記事では、それぞれの合併症についてエビデンス(根拠)に基づいて解説し、専門医の視点から具体的なアドバイスをお届けします。それぞれの合併症について、さらに細かく解説した記事もリンクしていますので、ご覧ください。

まずは、糖尿病の微小血管合併症についてご紹介します。代表的なのは「神経障害・網膜症・腎症」の3つです。出現しやすい順番に並べると「しめじ」という語呂合わせで覚えられることがあります。
糖尿病神経障害
神経障害とはどんな症状があるの?
糖尿病神経障害は糖尿病患者の約40~50%に起こり、最も早く現れる合併症の一つです。主な症状は、手足のしびれや痛み、感覚の鈍化(にぶくなり感じにくくなること)です。さらに進行すると、傷に気づかず悪化して壊疽(えそ;一部の組織が死んでしまう状態のこと)に至ることもあり、足の切断といった重大な事態につながることもあるため、早期発見・対処が重要です。
エビデンスに基づくリスク要因
米国糖尿病学会の研究では、HbA1cが1%上昇するごとに、神経障害リスクが約28%増加することが報告されています1。また、日本の研究では、神経障害の発症リスクは血糖コントロール不良期間が長くなるほど高まることが示されています2。
専門医のアドバイス
定期的な足の観察と発症早期からの適切な血糖管理が非常に重要です。足に傷ができても気づきにくいため、日々のセルフチェックが大切です。

一番早期に出現するわりに、検査による検出が難しいのが神経障害です。足の痺れや異常感覚などがあれば、一度主治医に相談してみましょう。
糖尿病網膜症
網膜症の症状と注意点
糖尿病網膜症は視力低下や失明の原因となる重大な合併症です。糖尿病患者の約30%に発症するとされており、働き盛りの世代の失明原因の上位に位置します。
網膜症予防のエビデンス
英国において行われた糖尿病研究(UKPDS)では、血糖管理を徹底することで網膜症の発症率を約25%低下させられることが報告されています3。また、日本の研究でもHbA1cを7%未満に維持すると網膜症の進行が著しく抑制されるとされています4。
専門医のアドバイス
定期的な眼科受診と血糖管理の徹底が不可欠です。自覚症状がなくても眼底検査は毎年必ず受けましょう。

早期の網膜症を自覚症状から言い当てるのはほぼ不可能に近いです。年に1回は眼科の医師の診察を受けることをお勧めします。
糖尿病腎症
腎症の進行と症状
糖尿病腎症は慢性腎不全や透析療法の原因となる重篤な合併症です。糖尿病患者の約20~30%に認められます。現在日本において、透析療法の導入の原因となる疾患の第一は糖尿病です5。「いかにして糖尿病による腎障害を抑えていくか」は日本の保健政策上の最重要課題の一つといっても過言ではありません。

腎症の予防に関するエビデンス
日本での研究によると、糖尿病発症早期からHbA1c7.0%未満を目指した厳格な血糖を行うことで、腎症の進展が抑えられたという結果が示されました6。
専門医のアドバイス
血糖管理に加えて血圧管理も非常に重要です。定期的な尿検査や腎機能検査を受け、早期の異常を見逃さないようにしましょう。

糖尿病専門医は必ず尿検査をこまめに行います。尿蛋白が+になることは腎症進展のサインですので気を付けましょう。
大血管障害(心筋梗塞・脳卒中)

大血管障害の特徴とリスク
糖尿病は、心筋梗塞や脳卒中といった生命に関わる大血管障害のリスクを大きく高めます。
心血管リスクの低減に関するエビデンス
英国において行われた大規模な臨床研究であるUKPDSでは、HbA1cが1%改善されると心筋梗塞リスクが約14%減少すると報告されています。さらにUKPDSに参加した患者を最長42年という長期にわたり追跡した結果「糖尿病と診断されてからすぐに、血糖降下治療を強化した患者では、40年後も糖尿病の合併症のリスクが軽減されていること」が明らかにされました7。
専門医のアドバイス
糖尿病患者は定期的な健康診断で心臓や脳血管のチェックを受けることが必要です。さらに、運動習慣の導入や食生活の改善、禁煙など生活習慣の見直しも効果的です。

早いうちこそしっかり治療が重要です。
専門医の視点からの総合的なアドバイス
糖尿病合併症の予防は、早期診断と厳密な血糖管理、定期的な検査がカギとなります。医療機関での定期的な診察を怠らず、指示された治療や生活習慣の改善を継続的に行うことが重要です。また、不安な点や気になる症状があれば、早めに主治医に相談しましょう。
結語
糖尿病合併症は怖いですが、適切な対策を取ることで多くのリスクをコントロールできます。医学的エビデンスに基づいた知識と専門医のアドバイスを活用し、合併症を予防して健康的な生活を送れるよう努めましょう。
参考文献
- Tesfaye et al. Diabetic neuropathies: update on definitions, diagnostic criteria, estimation of severity, and treatments. Diabetes Care 2010;33:2285-2293.
- Ohkubo Y, et al. Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study. Diabetes Res Clin Pract. 1995;28:103-17.
- Stratton et al. Association of glycaemia with macrovascular and microvascular complications of type 2 diabetes (UKPDS 35). BMJ 2000;321:405-412.
- Ohkubo Y, et al. Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin-dependent diabetes mellitus: a randomized prospective 6-year study. Diabetes Res Clin Pract. 1995;28:103-17.
- わが国の慢性透析療法の現況. 日本透析医学会.
- Ueki K, et al. Effect of an intensified multifactorial intervention on cardiovascular outcomes and mortality in type 2 diabetes (J-DOIT3): an open-label, randomised controlled trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017;5:951-964.
- Adler AI, et al. Post-trial monitoring of a randomised controlled trial of intensive glycaemic control in type 2 diabetes extended from 10 years to 24 years (UKPDS 91). Lancet. 2024;404:145-155.

この記事を書いた人
都内の総合病院で糖尿病や内分泌疾患を専門に診療している医師です。総合内科専門医/糖尿病専門医/内分泌代謝科専門医/医学博士。年間2000人以上の糖尿病患者さんを診察しながら、学会発表や研究活動も行っています。このブログでは、日々の診療で感じた「患者さんが本当に知りたいこと」「わかりづらい医療情報をわかりやすく伝えること」を大切にしています。正しい知識を知ることが、安心への第一歩になりますように。
“糖尿病の合併症とは?” に対して1件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。