“筋肉の少なさ”が危ない?サルコペニアと糖尿病の関連とは

「太っていないから糖尿病の心配はない」——そう思っていませんか? しかし、痩せているのに糖尿病になる人もいます。
その背景には、筋肉量の少なさ=サルコペニアの存在があるのです。
この記事では、サルコペニアと糖尿病の関係について解説します。
また、糖尿病の合併症についてもわかりやすく説明します。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、筋肉の量や力が減る状態です。 高齢者に多いですが、若くても起こります。 主な原因は以下の通りです:
- 加齢に伴う筋肉の自然な減少
- 運動不足
- 栄養不足(特にたんぱく質不足)
- 慢性疾患による影響(炎症やホルモン異常など)
筋肉は血糖を取り込む大事な器官です。 筋肉が少ないと、血糖が処理されにくくなります。 その結果、インスリン抵抗性が起き、糖尿病につながります。
なぜ筋肉が少ないと糖尿病になりやすいのか
筋肉はインスリンの効きやすさに深く関係します。 筋肉が多いと、血糖を効率よく処理できます。 逆に筋肉が少ないと、血糖が処理できずに血液中に残ります。
さらに、筋肉には以下のような役割があります:
- ブドウ糖を取り込み、血糖値を下げる
- マイオカインというホルモン様物質を分泌
- 免疫や代謝のバランスを保つ
サルコペニアになると、これらの機能が低下します。 その結果、インスリン抵抗性や慢性炎症が進み、糖尿病を悪化させる可能性があります。
糖尿病の合併症とサルコペニアの関連
糖尿病が進行すると、さまざまな合併症が起こります。 ここでは代表的なものを取り上げ、それぞれサルコペニアとの関連についても述べます。
1. 神経障害(ニューロパチー)
- 手足のしびれや感覚の鈍化が起こります
- 進行すると歩行障害や潰瘍、壊疽の原因になります
- サルコペニアにより筋力が低下すると、さらに転倒のリスクが増加します
2. 網膜症(糖尿病性網膜症)
- 目の奥の網膜にある血管が障害されることで発症
- 初期は自覚症状が少ないが、進行すると視力低下や失明の危険があります
- 筋肉量が少ないと活動量が減り、血糖コントロールが難しくなります
3. 腎症(糖尿病性腎症)
- 血液中の糖が腎臓の血管にダメージを与え、尿たんぱくが出現します
- 重症になると人工透析が必要になります
- サルコペニアに伴う慢性炎症が腎臓への負担を高める可能性があります
4. 大血管障害(動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中など)
- 糖尿病は動脈硬化のリスク因子です
- サルコペニアがあると血管の柔軟性が低下し、心血管イベントのリスクがさらに上昇します
最新の研究結果より
近年、サルコペニアと糖尿病の密接な関連が明らかになっています。
実際に筋肉量が少ない、サルコペニアの患者さんの血糖値は悪く、さらに寿命も短いことが報告されています1。
専門医の視点
臨床現場で感じるのは、「やせ型糖尿病患者の合併症が意外と重い」という事実です。
治療方針としては、単に「体重を減らす」ではなく、 「筋肉を落とさずに内臓脂肪を減らす」ことが重要です。 そのためには:
- 有酸素運動(ウォーキング、バイクなど)
- レジスタンストレーニング(スクワットやゴムバンド運動)
- 十分なたんぱく質摂取(腎機能が正常である場合に限る。体重1kgあたり1.0g以上を目安)
こうした介入によって、糖尿病の進行を抑えるだけでなく、合併症予防にもつながります。
まとめ
糖尿病は「太っている人だけの病気」ではありません。 筋肉量が少ない、つまりサルコペニアがある人にもリスクがあります。
糖尿病合併症の発症を防ぐためには、次の点を意識しましょう:
- 見た目よりも「中身(筋肉・脂肪)」を重視する
- 毎日の生活に少しでも運動を取り入れる
- 食事ではたんぱく質とバランスを意識する
- 定期的に血液検査と筋量評価を受ける
筋肉は、血糖を制御する大切な味方です。 糖尿病の予防・管理のために、今日からできることから始めましょう。
参考文献
- Srikanthan P, Karlamangla AS. Am J Med. 2014 Jun;127(6):547-53.

この記事を書いた人
都内の総合病院で糖尿病や内分泌疾患を専門に診療している医師です。総合内科専門医/糖尿病専門医/内分泌代謝科専門医/医学博士。年間2000人以上の糖尿病患者さんを診察しながら、学会発表や研究活動も行っています。このブログでは、日々の診療で感じた「患者さんが本当に知りたいこと」「わかりづらい医療情報をわかりやすく伝えること」を大切にしています。正しい知識を知ることが、安心への第一歩になりますように。